ある日突然、42人の生徒に強制される殺し合い。歯向かえば容赦なく消され、おびえ怒りながらも与えられた武器を手に、自分たちの命をかけた殺戮(さつりく)ゲームの幕を切る。初めて味わう死と隣り合わせの極限状態で、夢、希望、願い、友情…さまざまな自分の思いと向き合いながら武器を抱えて走る彼らの姿に、凝縮された青春像が垣間見れる。
また、ビートたけし演じる中年教師をとおして居場所のなくなった大人の憤りと寂しさも十分に伝わってくる。情けない嫌われ者教師からヒトラーさながらの冷徹殺人司令官、そしてラストに本当の心情を見せる中年男への変化をビートたけしが圧倒的な存在感で演じているのも必見。(中山恵子)
続発する少年犯罪は現代においてもはや遠い世界のできごとではありえず、不快感なしにこの作品を読み進めることは不可能に近い。その意味で、本作品がさる文学賞の選考会で委員から徹底的に否定されたことはうなずける。だが、反社会性というマイナスを補って余りある魅力が、たしかにこの作品にはある。たとえば少年たちの多くは大人や社会に対して名状しがたい嫌悪感を抱く存在として描かれている。その一方で、ある者は絶望的状況を打開すべく全力を尽くし、ある者は深く秘めた恋に身を焦がして、読み手の心を締めつけずにおけない。不条理に直面してもなお人を、未来を信じたいという彼らの思いは、そのまま著者からのメッセージでもあろう。
表現の稚拙さは時折目につくが、スピード感ある筆致にはただただ驚かされる。ストーリー運びの巧みさは非凡だ。加えて、最も高く評価したいのは、中学生たちの心理描写に横溢(おういつ)するユーモアだろう。その脳天気さと過剰ぶりは殺し合いという極限状態に置かれた中学生の心理としてはやや不自然だが、身もふたもない物語を第一級のエンターテイメントたらしめているのは、まさにこのたぐい稀なユーモアセンスなのである。前途有望な作家の手腕に心から敬意を表したい。(西村 匠)