コレリ大尉のマンドリン 4488016340 東京創元社
■Amazonエディターレビュー 本書は、イギリスで1994年に刊行されて以来、7年間で200万部以上の売り上げを記録し、世界26か国で出版された大ベストセラーの歴史・恋愛大河小説である。 舞台は第2次世界大戦下のギリシャの小島、ケファロニア島。村で唯一の医者の美しい娘と、村に進撃してきたイタリア軍大尉の、半世紀以上にわたる恋愛の軌跡を描いたこの作品は、愛、夢、希望など、人間性のすべてを破壊する戦争の悲惨さと、その中で絶望と戦い、これに打ち勝ってゆく人間の素晴らしさをあますところなく描いている。 地中海の陽光と微風の中、島の人々の日常は美しく、あくまでつつましく穏やかに、かつユーモアたっぷりに描かれる。人格者として村人に慕われる老医師イアンイスと、優しさと激情を併せ持つ気丈な娘ペラギアの細やかな心の通い合いは胸を打つ。その静かな日常が、イタリア軍の進撃・占領によって破られる。接収された家に同居することになったアントニオ・コレリ大尉は、マンドリンを奏でる好男子だった。ペラギアは反発を感じながらも、何時もユーモアを忘れないコレル大尉にひかれていく…。相思相愛となった2人の語り合いは、いつも「戦争がすんだら…」に始まり、そして終わることとなる。「戦争がすんだら結婚しよう、戦争がすんだら子どもを作ろう…、戦争がすんだら…」。2人の苦悩は、ギリシャという小国家が、その神話的・牧歌的世界を、近現代史の激動に蹂躙(じゅうりん)される苦悩の声そのものである。 戦火の絶望のうちにあっても、音楽が人を救うことを作者は強調する。ドイツ軍に銃殺されるべく連行されるトラックの中でも、コレリ大尉は部下たちに「さあ歌おう」と声をかける。「死ぬ覚悟をするよりも、ハミングするほうがずっと楽しい。そしてそれが、何かができるという意欲につながった」というくだりは感動的だ。戦後、長い時を経て再会する2人の「老いらくの恋」は、痛々しくも美しい。 本書は、戦争の惨禍をもやさしく包み込む「音楽」と「ユーモア」の偉大な力を読者に教える。地中海のおおらかさと、ギリシャの陽光が行間からにおってくるような好長編である。(濱 籟太) |