自然資本の経済―「成長の限界」を突破する新産業革命 4532148715 日本経済新聞社
■Amazonエディターレビュー 「『人間にとってよいことは、世界にとっても当然よいことだ』という生き方は間違いであることが明らかになった。私たちは生活様式を変え、『世界にとってよいことが、人間にとってよいことだ』という正反対の生き方をしなければならない」。著者は詩人ウェンデル・ベリーの言葉を引用し、我々の社会が掲げてきた「産業資本主義」からの脱却と、「ナチュラル・キャピタリズム(自然資本主義)」への転換を呼びかける。 ここでいう「自然資本」とは、水や鉱物、石油など人間が使用するすべての資源を指し、またサンゴ礁や熱帯雨林、草原などの生態系をも含む。自然資本は、肥沃な土壌や大気の循環など、人類の生命維持に必要不可欠な環境を提供してくれるものである。こうした自然資本の維持・供給と、人類が行う人工的な産業生産との依存関係を再認識し、その価値を十分考慮に入れた経済社会を目指すのがナチュラル・キャピタリズムなのだ。そして、著者はナチュラル・キャピタリズムと新しい産業システムの構築のために、「資源生産性の根本的改善」「バイオミミクリ(生物模倣)」「サービスとフローに基づく経済への移行」「自然資本への再投資」という4つの方向性を提案する。 たとえば資源生産性の根本的改善では、使用する原材料やエネルギーを減らし、得られる製品や仕事量が同じであることを目指す。また、土壌微生物の食物連鎖や窒素フローを管理し食物の収穫高を伸ばすなど、自然の穏やかな化学技術を学び、まねしようというのがバイオミミクリである。 さらに本書では、企業の具体的な取り組みを紹介しながら、こうしたナチュラル・キャピタリズムの実現が絵空事でなく、すでに現在進行形であることを示している。その筆頭に挙げられるのが、車体の軽量化による省資源化や燃費の向上、ハイブリッド方式電気自動車の開発などが進む自動車産業だ。加えて建築業界や不動産業界における事例も取り上げられている。また、こうした事例だけにとどまらず、「自然界の繊維」「生命を支える食糧」「水資源問題の解決策」の3章では、それぞれ森林と農地、水について生物学的観点から人類や産業とのかかわりを見つめ直している。自然と産業、人類の視点を軸に環境問題をとらえ、ナチュラル・キャピタリズムという方向性を示している。読みごたえのある1冊だ。(北国春魚) |